神々の祝詞(小説)
 
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第10章『それぞれの罪』4

王は玉座にいた。まったくなんの変わり映えもない日常。
孤独というものが形をなしたかのような空白の玉座に腰かけ、今はもう使うこともなくなった愛剣に手を当て見えない地平線を望む。
見えない、はるかかなたの地平線を。
この男―――運命の戦女神と出会うまであとわずか。


白銀の呪い。
あれは、この世に存在してはならない呪いの呪具だ。
ナスラ王は血痕の残る地下牢で立ちつくした。
“ナスラの魔物”
あの存在は、存在してはならない、しようはずもない闇の物質だった。かつて彼の父が封印したのは、何も王妃の拾った捨て子にこの国の王位を譲りたくなかったからではない。
“あれが、存在してはならないものだったから”である。
王妃が死んでのち、前国王であった父は、あの化け物を地下牢に封印した。そしてそのまま殺そうと思ったのである。
国王は食料も与えず、自由も与えず、その化け物を皮のベルトで厳重に縛りつけ、地底の奥深く、地下牢の最下層に封印した。
牢の周りには無数の警備を配置し、間違ってもあの魔物が逃げないようにと厳重装備にしたのである。

しかし、あの化け物は逃げた。

しかも一度と言わず二度も。
その地下牢には血痕が広がる。
どうしたものか、広い部屋にくまなく血の花を咲かせ、高い天井にまでその花は及んでいる。
居合わせた兵士の生き残りは、うわごとのように呟き、そして息絶えた。

“あれは『死』そのものだ”、と。


「ネオ様、あなたの記憶を私に分けてください。」
精霊の言葉に、ネオはほほ笑んだ。
「それであの子のもとに行ける?」
天使のような青年の笑みを色を映さない盲目で見つめ、ナスカディオネはうなずいた。
「絶対に見つけられると断言できるものではありませんがあなたの記憶から彼女の軌跡をたどります。」
ネオはその言葉に、挑戦的な笑みを浮かべた。美しい笑みだ。
「それならもう僕も試したよ。」
「それはあなたの記憶をあなたの記憶が探しているにすぎません。光の中で光を探すことは不可能です。」
「なるほど。」
「私はあなたの記憶とこの大地が吸った記憶を照らし合わせ彼女を探しましょう。」
「さすが。お願い。」
そういうとネオは膝を抱え、光の中記憶をたどった。遠い、遠い記憶を。

「見ろ!ネオ!海だ!!」
ヤトバの森を出て、初めて海を見たリリラは笑みを顔いっぱいに広げてそよぐ海風に瞳を閉じた。
彼女が思いつめた顔で兄と母を探しに行くと言った時はどうしたものかと思ったが、彼女のはしゃぐ様を見れば、悪くない、とネオは思った。傍らには最近生まれたクロムがいる。彼はどうしても冥王の体が気に入らないのかしきりとだんまりを決め込んでいる。
「そんな顔するんなら、来なければよかったじゃない。」
ネオが面白そうに言うと、クロムはさらに不機嫌な顔をしてそっぽを向いた。
「うるせぇよ。」
「ほら!君も初めてでしょ?海!」
「初めてじゃねぇよ。」
ぼそぼそと言うと、さも大儀そうにクロムは寝室へ消えていく。
「船酔いかな?」
まったく空気の読めないネオは本気でそう言って首をかしげた。先日の戦闘でリリラが斬ってしまったのでその髪は短く、彼女のすきなサラサラという砂金の零れ落ちるような音は聞こえない。
船はどんどん大海原を進んでいき、視界は鮮やかに入れ替わる。リリラはそれを楽しそうに、目で追い、ネオはひとつひとつを彼女に説明した。
「ネフィア、私の父は、伝説の海賊王だという。」
「そうだよ、伝説の海賊王、ドラゴン・アイ。僕もあったことないけど、かなりいい男だって。」
ネオがくすりと笑っていたづらっぽく言うとリリラは眼を輝かせた。
「いつか、いつか会えると思うか?」
無邪気に笑う少女に、ネオは誓うように言った。
「必ず、必ず会えるよ。僕が約束しよう。」
「本当か?」
少女はうれしそうに笑った。
(まだ疑うことも、悲しむこともなかった、このときに、戻れたら。)
ネオはゆっくりと彼女の漆黒の髪をなでる。少女は眼を輝かせながらネオを見上げた。
「ところでどこへ行くのだ??」
「僕の故郷、ドロスティーに。」



Saturday, 06, Mar 21:04 | Trackback(0) | Comment(0) | 第10章 | Admin

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